<読書日:2021/5/24、投稿基準日:2021/5/25>
現在『積ん読本』が貯まっており、順次読破しています。だいたい今年に入ってから、読書への意欲の低下が見られ、一方情報収集癖は衰えなかったので、貯まる一方です。
また、ブログに読書記録することも停滞中で、読破後放置された本も『第二の積ん読本』になっています。
今回は、半年くらい前に『リニア新幹線』問題について研究しようと購入した本のなかのひとつ。だいたい次の3書を購入し、実際に読んだのは購入とは逆順です。
ネットでリニア新幹線が環境問題やJRの経営問題になっていることを調べていて、本書にたどり着きました。
(2)<リニア新幹線が不可能な7つの理由、樫田秀樹著>
最初に購入した本には、具体的に『環境問題』や『JR東海の不誠実さ』などは、別の本を参照する方が良いとされており、本書を探しました。
(3)<「国土強靱化」批判、五十嵐敬喜著>
当初『純民間事業としてJR東海が事業者』とされたのに対し、『財政投融資3兆円』、『用地収容、残土処理などを自治体に丸投げ』など不可解な事案を解明するためには、自民党安倍政権で、国土強靱化など東日本大震災後の公共事業のありかたがどうなっていたかを理解するために購入しました。
本文は(2)<リニア新幹線が不可能な7つの理由、樫田秀樹著>についての読後感想になります。
本書はリニア中央新幹線にまつわる問題について7つの要素に分類しています。
1)残土問題
2)水涸れ問題
3)用地取得問題
4)運行の安全問題
5)ウラン鉱床(残土問題で一番問題な部分)
6)不完全な環境アセスメントと丁寧に住民対応していなことからおこる反対運動
7)難工事(そもそも完成するのか)問題、(工期延長による工事費増と運用コストを方式や構造がちがう東海道新幹線から算出している)採算性
著者は7つに分類しているが、基本的な問題として私の指摘は以下の通りです。
1)東京大阪建設距離500km、最高速度500km、所要時間1時間というコンセプト
a)結局所要時間1時間を追いすぎたため、無理な南アルプス越えの直線ルートを取ったり、1時間越え(69分以内を目標)を恐れて、経済性や利便性まで無視して東京側は品川を始発(既存JR東日本各線と連絡出来ない)としたり、名古屋では用地買収に時間のかかる既存駅直角ルート(既存線との乗換が不便で、中心部分に混雑が集中し、例えば東京メトロ新宿三丁目駅のように混雑)を取っている。
b)リニア新幹線の最高速度は出力上の最高値を示しており、むしろ既存の新幹線技術で可能だと言われる時速300kmを超えるあたりから、非接触による走行抵抗減少の要素より、リニア駆動そのものの原理に由来する、磁気抵抗増加の要素の方が大きくある傾向がある。そもそもリニア駆動の原理上の問題だから、研究して減らせるようなものでは無いことが世間一般に理解されていない。(研究すると解決するような広報報道のされ方をしているが、リニア新幹線と言うものは、線路敷きそのものがモーターの一部で、レール鉄道方式の新幹線のように、走行モーターを改良交換すれば解決するようなレベルの問題では無い。)経済的走行速度そのものが明示されていない問題。
c)鉄道の輸送時間に関して、最高速度は技術の優位性を示すだけであって、平均速度または表定速度、乗降の容易性も考慮されなければならない。飛行機並みの保安検査や全員着席確認してからの発車、停車案内後からの降車準備などしていたら、航空機の離陸着陸前後のようなさまになってしまい、これが果たして既存新幹線並みの利便性が発揮できるのか疑問である。(小学生の頃、500、500、1時間のコンセプトを聞いてて既に加減速時間とか停車時間とか考えたら鉄道として非常識だろうと思っていた。違和感なく聞ける人は鉄道をあまりにも知らない人だ。一般の鉄道で『間もなく次駅です、降車の準備をお願いします。』で完全に止まるまで立って荷物下ろせない(飛行機と一緒)のだから停車時間は増えると考えて良い。)
d)東海道新幹線のバイパスを目指して建設するのであれば、南アルプスの断層帯集中地帯は避け、想定される東海地震東南海地震と連動して動くエリアは避けるべきところ、避けても500kmは超えないから1時間にこだわったとしか思えない。経営的には2027年まで開通目標が結果的にどこまで遅れても大丈夫なのかで判断した方が優秀な経営者だと思うが。2027年はちょっと冒険好きの少年的発想。
e)東海道新幹線のバイパスとしてだが、列車長さが既存新幹線並みであっても、5列席が4列席に、磁気シールドが開発段階として不完全で台車上空間が座席として利用出来ず、編成定員1000人と言うのは盛りすぎで、営業列車特有のサービス設備であるトイレ洗面スペースを入れたらほぼ無理。車内電源を現在石油燃料積み込みの発電機で行っているが、誘導発電に置き換えるとして、走行中しか給電出来ないシステムだから、緊急時の長時間給電に対応するためのバッテリーの装備状況によっては、重量バランスから定員を減らす要素になりかねないことが考慮されていない。
g)続行連続運転の要素が発表されず、趣味の者や報道機関で仮想のダイヤを発表しているが、山梨試験線ではすれ違い実験や続行運転実験はやったようだが、駅での停車追い越し試験みたいなのは実験線自体にそういう設備が無く、これが営業運転に向けての試験かと首を傾げたくなる要素がある。東京名古屋285kmのうち42km(全体の約15%)が実験線として完成しているのだから、4編成くらい同時稼働して、電力系統信号系統の試験や運用要素としてどれだけの余裕が必要か(分岐装置を動かして)実車で確認するぐらいの本気を見せて欲しいところ。(本来の開業予定まであと『6年』しかないのだから)
2)技術的完成度が低いのに実現可能と断言していること。(最先端技術なのに?トホホな要素が多すぎる)
a)リニア新幹線システムに関しては、営業運転のための運用要素技術の蓄積不足
b)土木技術に関して『掘るだけなら可能』な『トンネル技術』で完成可能としており、『環境要素』『保守運用要素』について、不完全な説明しかなされていない。
c)東海北陸自動車道の『2007年飛騨トンネルの貫通』(工事期間12年)を持って、『南アルプストンネルの掘削が可能』と判断したとの資料が散見されるが、やはりそれでWEB検索をすると、JR東海の事前調査不足は、『上越新幹線の中山トンネル(鉄道建設公団施工)』を想起させる(施工中に異常出水事故により掘削困難な部分が発生して、トンネルをカーブさせて回避し現在160km/hの制限速度がかかる区間)らしい。静岡県との確執が報道されるが、そもそも事前調査不足で回答すらできていないような表現が多すぎ。大プロジェクトにもかかわらず、何事も丁寧さに欠け実現能力があるのか不安になる。そもそも『飛騨トンネル以上の壮大なトンネル掘削』を目指しているのに、準備調査期間、想定している工事期間が、飛騨トンネルより壮大に短すぎて、『工事の遅れが静岡県のせい』と世論を動かすのはおかしいのではないか?
d)関東のテレビメディアでは、品川駅をはじめトンネル掘削が順調なことを報道しているが、JR東海のお膝元の名古屋駅の工区では、未だに土地の更地化工事をやっているらしい。都市部では土地を買収しただけでは工事着手は難しく、既存インフラ(道路、上下水道、ガス、電気、通信)などを切断することなく切り回しすることが求められるので、本当の意味での工区全域での本体着手はまだ時間がかかるだろう。
e)都市圏のトンネルは大深度地下法の活用で地上部への補償なく建設されることになったが、外環道の世田谷での陥没事故(2020年10月)で明らかになったのは、一般的な浅い地下でのシールド工法採用なら影響の及ぶ範囲で『事前調査』と『事後調査』で問題なく工事が出来たかの確認、あるいは影響があった場合の『補償手順』が明確化されていたのに、影響範囲を想定特定することも、事前調査すらもやっていない『大深度地下法の不備』が明確になった。
3)国鉄改革時の精神に反する動きがあること。
a)JR東海の資金で行う民間企業の投資案件だとするが、それだけの余剰資金を産む余地が国鉄改革時に見過ごされていたのは看過出来ない。北海道、四国では明らかに破綻状況にあることを考えると、1社だけ負担を軽くし過ぎたのではないかと思われてもしかたがない。民間企業であるのなら、株主に還元するとか、利用者に還元するとかの考えにならず、経営者の思いつきにここまで付き合う必要あるのかという問題。
b)アベノミクス安倍政権において3兆円の財政投融資が実行され、純民間事業とは言えなくなっていること。事業認可後、国及び地方公共団体が公共事業並みの協力体制(用地補償交渉、残土処理方法の検討や許可)を行っていること。(道路工事と同様の処置)
c)国鉄改革で成立した法人であるJR東海、民間企業になったとは言え、法制度によって成立した公共運輸事業企業体であるにもかかわらず、海外メディアから政治的中立性を疑われるような活動を行っているとたびたび報道される(国内メディアは静観)こと。(例えば車内置き雑誌、日本語のわかる外国人が見ると政治的中立性が無いとか。外国人利用の多い東海道新幹線の立場を経営者が理解していないように感じられる。)
本書の感想本文
前段で私の思うところをまとめたが、本書で中核をなすのは『トンネル計画のずさんさ』の指摘である。ほとんどトンネルと言って良いリニア中央新幹線工事、計画中心線を引くのは簡単だが、付帯する前作業が突貫作業すぎて、トンネル工事の基本である残土処理地をあらかじめ探す作業すらしておらず、土建屋で中央工学校出身の田中角栄だったら少しぐらい配慮するであろう、土木工事の基本中の基本、切った土掘った土は盛り土で消費する、そういう設計的配慮は現在の土木工事ではやってないのではないか?と思うくらい、掘ることと埋めることのバランスの悪さを感じる。
例えば首都圏トンネルの残土処理、山間部に車両基地を作ることにして用地内に確保はしたものの、余ったら千葉、反対運動にあったら川崎へと、その場しのぎでやっているように感じる。本書によると地元住民への説明は丁寧さに欠け、決まっていない事項は次の調査が終わってからとか、自治体に調整をお願いしている段階だからとか、後回しにされ不安な沿線住民が多いとのこと。WEBによる情報とかを重ねると、反対運動にあって自治体が困り果てトンネル出口周辺に残土処理出来ない場合、広域処理となり関東圏や中京圏まで運搬して処理するそうだ。鉄道マニアがJR東海の残土処理鉄道コンテナについて逐次調べているので、情報は筒抜けである。
時は令和に変わっているのに、戦後の高度成長時代にあった環境破壊や強行的事業推進が今起きていることに驚きを感じる。時には公共事業、時には民間事業と使い分け、調査不足は民間事業として逃げ、その結果工期不足は公共事業と言う言い訳で逃げ切れるのか、国民は注目しなくてはならない。
国鉄民営化は、国民に過度な負担をさせること無く、日本の鉄道網を維持することが目的であったことを忘れてはならない。
測量士としての目線から
軌道狂いに対する150m単位の基準点誤差が2mmとかどうやって計測するのか?測量機器の仕様からして難しいのではないかと。。