【日本の伝統芸・我田引水は繰り返す】高速道路建設早期の政治的混乱と現在に至るインフラストック不足(その3)中国自動車道と三陽山陰の関係にみる動き出したら止められない公共事業と現在につながる誤った情報発信の仕方を指摘する
<日付:2021/7/29>
中央自動車道とは違い、最後までほぼ予定通りの通過地域を通り完成させてしまった中国自動車顛末。
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戦前の自動車国道構想
中国地方について、戦前の自動車国道構想(大東亜共栄圏全国自動車国道計画)が1948年(昭和18年)に構想発表しすぐに中断されたが、既存の重要港湾を結ぶことにより、陸上交通(鉄道貨物)や海上交通の輸送の逼迫を緩和させたりフィーダー輸送としてのトラック輸送を考えれば当然な考えだと思われる。
政治主導による『縦貫道』『横断道』計画
国土開発縦貫自動車道建設法1957年(昭和32年)、中国横断自動車道建設法1965年(昭和40年)、中国横断自動車道建設法1965年(昭和40年)よって、路線が法定された。背骨と肋骨の高速道路網計画の政治的理念が達成されたかのように見える。
建設省は、これと違った高速道路網を1960年(昭和35年)から調査しており、国土開発幹線自動車道建設法1966年(昭和41年)によって、本来高速道路網として必要な部分を加え修正された。
これによって政治的な路線建設が先行し、ネットワークとしての路線網建設が後追いすることが確定的となった。
現在の高規格幹線道路網
結局、中国道、山陽道、山陰道全部が道路網として組み込まれた。京都府兵庫県鳥取県日本海側が抜けているが構想路線となっている。
本当に必要な道路が優先されたか?
中国道、山陽道、山陰道(まだ全通していない)の順番で建設されることとなるが、有料無料の差があったり、国道との接続の関係が影響しているが、交通量はだいたいこんなイメージと思って良いだろう。
中国道最小断面域(吉和IC~山口IC) 2千台/日超
山陰道の有料区間建設途上の末端部で並行して改良の進んだ国道がある区間でさえ、中国道の最小断面域と同じ程度のようだ。1万台/日の基準が暫定2車線、完成4車線建設の境界と噂されているので、ずいぶんと無理して建設した感が否めない。
都市の配置と地形
開発可能性の高さから、山陽道や山陰道のほうが圧倒的な存在感にみえる。全通からもすぐ40年になるのにむしろ過疎化の進む中国道沿線、過疎対策としての高速道路は有効では無いと思える。
そもそも高速走行出来ない高速道路
中国自動車道は中央自動車道の初期区間のように、実務者の道路公団は需要が見込めない路線とみていたようで、特に広島~山口の区間は、コストカットのため山を回避するトンネル建設が最小限に抑えられ地形に沿った線形になっている。最高速度が低いため、時間短縮効果が少なく高速道路とは言いがたい。
一方、山陽自動車道はトンネル工法を多用し、最高速度が高く時間短縮効果が大きいため利用価値は高い。沿線に産業が立地しており、国道との接続も良く、山陽道ありきで、あらかじめ国道改良やインター周辺の整備を行ったことがうかがえる。
時間的相関図
山陽道の建設期間の長さが目立つが、立法的には1年の遅れが、予算獲得の順位として相当下がってしまったことがあると思う。山陰道などは利用価値が高い区間があるにもかかわらず放置期間が相当長い。
日本の高速道路網計画は結構ある
※法的位置などはネットにいくらでも資料があるのでここには記述しません。
高規格幹線道路網 計画1万4千km(完成1万2千km)
国土のネットワークとしての扱いは良くこちらの数字が出されるのだが、利用が多く国民の多くが高速道路として認識している、都市高速(首都高など)、都市圏の環状道路(圏央道など)、高規格な有料道路(京葉道路、横浜横須賀道路など)、高規格な無料国道(新4号バイパスなど)いくらでもあり延長は次の通り。
地域高規格道路 計画7千km(完成3千km)
この二つの路線計画がありながら、諸外国との整備水準比較検討、予算獲得までの説明としての日本の道路整備資料として、分けたりくっつけたり恣意的に行っているんじゃないかと思われるフシがある。
利用者感覚からみた高速道路網は次のように考えたら良い
高規格幹線道路網+地域高規格道路=計画2万1千km(完成1万5千km)
ドイツとの比較にだまされてはいけない
日本地図とドイツ地図を並べて、ドイツのアウトバーンを含む高速道路網の圧倒的な密度を示す手法、これは連邦道路(日本の直轄国道みたいな道路)が郊外部で制限速度が100km/hだから含めるとした比較対象の方法である。
・そもそも内陸部の国境地域を除いて、平坦部の耕作地に建設という地形の差。
・最高速度の考え方、路線整備の考え方の違う道路の比較。
・アウトバーン(日本の高速道路に相当)、連邦道路(日本の国道に相当)に分類。
ドイツの国土の基本的情報
国土面積 35.7万km2(日本の94%)
国内人口 8319万人(日本の66%)
アウトバーン整備距離 1万2千km(日本の高規格幹線道路の完成距離に相当)
連邦道路の整備距離 4万km(日本では、地域高規格道路+一般国道+スペックの高い主要地方道=6万km以上なので、法整備と路線指定の基準で単純な比較は出来ない)
ドイツの連邦道路は日本で言えば北海道の平坦地無料国道の制限速度を100km/hに緩和したようなもの
日本の地形は急峻な山地森林地帯を蛇行した河川が刻んでおり、標高差が大きく、曲線カーブが多く谷を埋めたり山を切り取ったりと大規模な山岳道路工事になりがち。山岳道路の欠点を補うために長大トンネル長大橋梁で直線的かつ勾配緩和することも出来るが、コストが膨大で『相当需要が見込める区間にしか採用できない』(新東名、新名神)
日本の平野平坦部では、都市計画の網をかける前にスプロール化してしまい、地域内交通をどうするかの都市計画に、全国や地域間の高速道路網を割り込ませる形になり、土地が得るのが困難なばかりか土地収用費用が高額になりがちで、都市部を避けるために山地にトンネルで通すようなことも行われる。
対してドイツは、地形は浸食が進んだ比較的平坦な土地が農地として利用され、都市部と明確に区分されているため、この農地に直線的で平坦なアウトバーンや高速道路的な国道(連邦道路)を建設することが出来た。都市の範囲がスプロール化していないため、都市の外周部の農地を通せば良いので、土地を得るのも容易である。
最高速度区間延長を比較した日独高速道路網比較は無意味
・日本はドイツを模範にしたとされるが、日本は山岳森林地帯を通る山岳路線主体の計画から始まっており、おのずとドイツ並み100km/h以上区間を比較対象とするべきでないことがわかる。
・ドイツは利用者目線のサービスレベルで路線網が分類されているのに対し、日本では法的位置、管理者、有料であるか無料であるかが分類で重視されており、非常にわかりにくい。山陰道は建設途上で高速道路建設(道路公団解体)についての議論と方式変更の時期と重なり、サービスレベル(有料無料、車線の建設規模、現道活用など)もバラバラとなっている。
・日本の国道は、内部的には直轄国道(国管理)、それ以外の国道(地方管理)があり、地方管理の国道は主要地方道と同じプロセス(国費分担率)で建設管理されるのに、『国道であること』が重視され(国道の無い町はイヤだとか将来は立派なバイパスを通したい政治的野望みたいな)、幹線(重要路線)と支線(末梢路線)との分類があいまいである。
韓国との比較は辛辣(ネットワーク(完成4車線以上)が既に完成)
日本と地形的に似ており、日本のような高山はないものの、沿岸部の都市と内陸部の都市をどう結ぶかの課題も同じで、既にネットワークが完成しているとのこと。
韓国の国土の基本的情報
国土面積 10万km2(日本の25%)
国内人口 5178万人(日本の41%)
高速道路整備距離 6千km(完成4車線以上)
(日本の高規格幹線道路網完成距離(暫定2車線も含む)の50%)
(日本の高規格幹線道路網+地域高規格道路の完成距離の40%)
韓国は面積や人口に応じた充分なインフラを完成させた
山岳部までこんなに建設して資金的(国家財政)に大丈夫なのかと疑問には思う。ただ、(ちゃんと管理出来ればの話だが)日本と違い巨大トンネル、長大橋梁の割合が少なく、維持管理費の問題は日本より少ないように思う。
日本国内で、整備手法整備順序経済性など不毛の議論で高速道路網の整備が遅れる中、朝鮮戦争もあり復興から開発への整備時期が遅くなった韓国が日本の規模を上回る整備が進んでいることは驚きだ。
韓国のインフラ整備の特徴は、日本の地方都市を巧みに利用していることだ。航空分野では、仁川国際空港が有名で、日本の地方空港が成田羽田関空中部のハブ機能を活かせないなか、仁川路線がハブとして機能している。海上輸送港湾分野では、釜山港などに超大型コンテナ船(欧米と同じ規格)の岸壁と最新の自動荷役設備を整備し、日本の各港湾のサイズに合わせたコンテナ船に積み替えを行っている。なんと既に日本の海上コンテナ輸送の2割はこうした方式だそうだ。
私は比較的批判的文章を書く人間だが、『日本に置かれた憂慮』から発進しているのであって、日本の反省文だと思っている。昔の人が子供に良い田畑を残したいと考えたのと同じで、日本の子孫に良質なストックを残して行くにはどうすれば良いかと考える。過去に習って、今は拡張だけで無く取捨選択の時代に入っており、具体的な例だと今回取り上げた中国道では、最小断面域は名阪国道のような無料国道にし、サービスレベル(最高速度を下げる、通行帯を減らす)を変えて維持管理費を減らしつつ、地域振興を図るなどすれば良い。
(つづく)
図面引用:国土技術支援センター、JICE第5号.pdf